ハシケン『うた』

ハシケン『うた』

2006年秋に沖縄の桜坂劇場のレーベル「Music from Okinawa」からリリースされた、シンガーソングライター・ハシケンさんのデビュー20周年のセルフカバーによるベスト盤『うた』。

アルバムレコーディングはその年の初夏、沖縄で行われたのですが、そのレコーディング場所となったのが、ここCONTEと浦添のライブハウスgrooveでした。
だから、ブックレットの表はCONTEの写真が、裏はgrooveの写真が使用されています。

そもそもは、その年の始めにハシケンさんを迎えての「夜コント」を行った時、店内の空間の響きの気持ちよさを気に入ってもらったことがきっかけでした。

今回のアルバムは、ハシケンさんのこれまでがギュッと詰まったベスト盤で、名曲揃いの10曲です。CONTEで録音した楽曲はそのうち2曲収録されており、ハシケンさんの歌を聴いたことある人もない人も、充分に彼の「うた」を堪能できると思います。

また、ライナーノーツをCONTEの川口美保が書かせていただいています。なぜハシケンさんの歌が心に響くのか、そんなことをテーマに書きました。ライナーノーツとともに聴いてもらえたら嬉しいです。

 

<ライナーノーツ>
 彼の歌はなぜ、人間の赤裸々な想いを、歌詞に託した大自然の風景を、もしくは日常の小さな出来事を、そしてそのすべてに共通する過去から未来へと受け継ぐ命の巡りを、これほどまでにありありと、聴く人の心に浮かび上がらせられることができるのだろうか。彼が歌う時、歌の感情が心に迫り、描かれた物語がそのまま聴き手のものとして紡がれていく。どの曲もたった5分ほどの楽曲なのに、まるで一本の大作映画を観たかのようなリアリティで訴えかけてくるのだ。

もともと楽曲の良さと歌の力に定評がある人だ。しかしデビュー20年を迎えるその頃から、彼の歌はまた違う意味合いを帯びてきた。今、ハシケンの歌を聴くことは、歌を超えた「体験」だった。

訊けば、ここ数年、ハシケンは自分の楽曲をすべて聴き直し、自らの歌唱を検証し、歌い方を変えていったという。何が伝わらないのか。どうしたら伝わるのか。そこに徹底的に向き合ったのだそうだ。それは、自分の歌声の可能性をもう一度発見すると同時に、楽曲の本質ににじり寄っていくような作業だったに違いない。年齢を重ねなお深まる人生の感慨も歌への理解をより深くしただろう。この先もずっと歌い続けることへの覚悟も彼の歌の力をより強くしただろう。実際、ハシケンの歌の届き方は「変わった」。情景の隅々が、繊細に揺れ動くエモーションが、鮮明になり、よりふくよかに、歌の魅力を増した。

そんな「今の歌声」で過去の楽曲をレコーディングしたいという想いは、当然の欲求だったと思う。しかもギターと歌の弾き語りという、今の実力が否応にも露呈してしまうやり方で記録するのだ。それは「今の歌の力」を信じなければできるものではない。

かくしてレコーディングは、2016年夏の沖縄で行われた。場所はあえてスタジオではなく、歌が「変わった」と彼自身実感した上でライブを行った、浦添のライブハウスと首里のカフェの2カ所で。つまり、会場に響く自らの声の振動をまだ身体が覚えている場所だ。だからか、そこに観客はいなくとも、「歌を人の心に届けたい」とする歌い手の想い、そして「歌が人の心に届いた」その生々しさがこのアルバムにはしっかりと録音されている。

選曲は20年のベスト盤と言っていい内容となった。初期の歌も多く収録されているが、まったく古さを感じさせないのは、彼がどんな時も人間の普遍的な営みを描いてきたからだということもあらためてよくわかる。

最初に書いた。なぜハシケンの歌が、歌に込めた想いを、歌に託した風景を、これほどまでにありありと聴き手に浮かび上がらせることができるのか、と。しかしこのアルバムを聴けば、その答えがわかるような気がする。

歌が心から心へ伝わる時、歌は動き出すのだ。魂が宿るのだ。聴き手はその命のほとばしりに触れ、生きている実感をひしと確かめる。想像力が豊かになり、人生の喜びと哀しみが溢れ出す。ハシケンの歌を聴くと、思うのだ。人生とは、この世界は、なんて豊かなのか、と。

そして、まさにいまそんな歌に出合った、その喜びに、いつの時も打ち震えるのだ。

川口美保

 

 



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