2017年から2022年までの6年間、満月の日の夜、CONTEでは、読谷のナチュラルワイン専門店「un deux trois」と一緒に、ナチュラルワインと食事を楽しむ「満月コント」というイベントを開催していました。
葡萄の栽培、醸造の工程にいたるまで自然の流れとともにつくられているナチュラルワインは、一本一本個性が違い、それぞれの生産者の哲学が生きています。地球のエネルギーが充ちる「満月の夜」にそんなナチュラルワインを飲むことは、自然の力を感じ味わうような、心も身体も喜ぶ体験で、CONTEでは、普段のランチと雰囲気を変え、夜の雰囲気の中、ナチュラルワインと食事をペアリングして提供していました。
「満月コント」は、現在は定期的なイベントとしてはお休みしていますが、また、いつか、満月の夜に! という思いを込めて、「un deux trois」のソムリエ加藤陵さんにナチュラルワインについて取材した記事(2017年)を、再度、掲載しておきます。
なお、今も、加藤さんは、CONTEの料理に合わせたナチュラルワインをいつも選んでくれています。ランチと合わせて、どうぞお召し上がりください。
Q1 加藤さん、まずは自己紹介をお願いします。
A1 読谷にワイン店「un deux trois」を開いたのが2016年5月です。沖縄に来て6年になりますが、5年間は那覇のワインショップで働いて、そこから独立して読谷でお店を出しました。「un deux trois」はフランス語で「1,2,3」の意味。僕の考える本当に美味しいワインは、1,2,3杯と自然と杯を重ねてしまうワイン。そんなワインを伝えて行きたいなという想いを込めてつけました。
僕は子どもの頃からなりたい職業がワインに関わる仕事だったんです。というのも、父親がフレンチのシェフで、幼い頃からワインが近くにあったんですね。だからワインの仕事に就くのは自分にとってはとても自然なことでした。料理人になることも考えましたが、僕にとってはワインの方がより面白いと感じたんですよ。なぜなら、ワインってひとつの共通言語の元、世界中でつくっているものだから。フランス、イタリア、アメリカ、チリ、そして日本でもつくっている。つまりワインを知ることで、世界のことを知ることができるんだというところに魅力を感じました。ワインを飲むことで海外旅行しているような気分になれるんです。
Q2 なぜ、お店を読谷につくったのですか?
A2 ワインショップの使命は、ワインを好きな人を増やすことだと思っています。「ワインっていいよね」という人が増えていって、いいご飯屋さんやレストランに行って、そんな時にもっと気軽にワインを楽しんでもらうという流れをつくりたいんです。そう考えた時に、沖縄ではまだまだその流れがまだできていないように感じていたんですね。そんな想いもあり、新しい場所でそういう活動をはじめようと思いました。
なぜ読谷だったかというと、読谷に住んでいる人たちは感度の高い方が多くて、量ではなくて質を大事にしている人が多いという印象があったから。そしてたくさんのご縁にも恵まれまたことも、もちろん後押しになりました。「un deux trois」はナチュラルワインを専門的に取り扱っていますが、これまでワインをあまり飲んでこなかったお客様のための入門編のワインも揃えています。そこから少しずつ「ワインっていいよね」と思う人が増えていって、じょじょにナチュラルワインを知ってもらえたらと思うんです。
Q3 そもそも「ナチュラルワイン」って何ですか?
A3 「ナチュラルワイン」というのはワインのカテゴリーです。「ナチュラルワインと呼ぶにはこういうつくり方をしているもの」という決まりがあります。
まず、大前提に、ワインの原料の葡萄が「有機農法(オーガニック)であること」。でもここだけで終われば「オーガニックワイン」なんです。「ナチュラルワイン」はこの先に3つの工程<発酵><添加物><濾過>があります。
<1.発酵>「天然酵母」による発酵であること。培養酵母であれば均一なものをたくさんつくれますが、ナチュラルワインは天然酵母による発酵でなければなりません。その酵母は、蔵やワイナリー、畑にあるもの、自然に存在するものです。健全なブドウを収穫し、搾った果汁が自然と発酵してワインになった、そんなイメージ。
<2.添加物を極力入れない> まったくゼロである必要はないですが、酸化防止剤や等添加物を極力入れないこと。酸化防止剤を入れないと、やはり酸化リスクが高まります。けれども、高まったとしても、本来の味わいを残した自然で美味しい味をつくりたいというのがナチュラルワインです。
<3.濾過を極力しない> 濾過をしないから、濁っています。濁るということは中に微生物が生きているということ。ですので、ちゃんと管理しないと思いも良からぬ再発酵をしてしまうことがあります。綺麗に濾過すると、雑味のないスッとした口当たりのワインはつくれますが、そうしてしまうと、実は本来持ち合わせている旨味や複雑味までも取り除いてしまいます。濾過しないからこそ、旨味、複雑味が自然に生きています。
天然酵母であること、添加物を極力入れないということは、「足し算をしない」という意味です。また、濾過をしないということは、「引き算をしない」という意味。オーガニックの健全な葡萄で、足し算も引き算もしない、つまり「ありのままのワイン」のワインのことを「ナチュラルワイン」と言うんです。
だから、ナチュラルワインって、決して突拍子もない目新しい革新的なワインということではないんです。生産地には自然にあるもので、ワイナリーで欲しい分だけ量り売りして買って飲んでいるものもあります。つまり、生産国の人たちにとってみれば、代々引き継がれてきた、「地酒」なんですよ。それをもう一度丁寧に広めようということなんです。
Q4 ナチュラルワインってどんな人が作っているのですか?
A4 比較的若い世代の生産者が多いです。なぜかというと、彼らのひと世代上のお父さんやおじいちゃんの世代は、たくさんつくってたくさん売るという時代だったんです。そのために、畑に農薬をまいて添加物を入れて、いつでも同じ味わいの均一なワインを大量に生産できるようにしてきたわけですが、それによって身体を壊した生産者も多くいます。農薬で自然も壊れます。そういう量産型の製造に対して、「それって、どうなのさ?」というアンチテーゼとして、若い世代の人たちが質を追い求めていこうという流れに切り替えていったのです。
Q5 加藤さんはナチュラルワインを説明する時、そのワインの生産者の人となりについて伝えますよね? その意図は?
A5 よくあるソムリエのアプローチは、ワインを伝える時に「澄んだルビー色で、完熟したベリー系の香りに、ほんのりとメントールを感じ、味わいは力強いアタック、渋味や酸味も存分に感じられ、余韻にはほんのりと土の風味もあり長く残ります」とか「シャープなアタックで、バランスのいい、フィネスに富んだ、ミディアムボディのワインです」とか、専門用語やカタカナを並べることが多いんです。でもそれで、お客様に本当に伝わるのだろうか、と疑問を感じていました。僕も経験があるんですが、そういう説明をしていくと、お客様の目の前に「?」が浮かんでいるのが見えるんです。それを解決しようと頑張れば頑張るほど、「???」が増えているのが見えちゃって・・・。説明しているようで、それによってなおさらワインを難しく感じさせている部分があるのではないかと思います。もちろんそういう観点も大事です。しかしそのワインをつくっている人がいるのだから、その人のことをまったく伝えないというのは、なんかもったいないなと思いました。
特にナチュラルワインは、一人でつくっていたり、家族経営だったりと、つくりての顔が見える小規模経営のところばかりです。最近、野菜の販売などでも生産者の顔が載っていますが、「こんな人がつくっているんだね」ということがわかる方が、ワインをもっと身近に感じてもらえるのかなと思います。だから自分はなるべく「人」を伝えるようにしているんです。
Q6 加藤さん自身、ナチュラルワインに出会ったきっかけは何だったのですか?
A6 ナチュラルワインというカテゴリーが注目されだしたのは、まだここ10年くらいなんですよ。もちろん僕も言葉は知り、興味は持っていました。でもまだみなさんと同じように「オーガニックワインとは何が違うの?」と理解が曖昧だった頃です。知ろうとすればするほど、本質を知りたくなって、ナチュラルワインのことを勉強したいと思って、東京のorganというビストロにご飯を食べに伺ったんです。そう、そのorganさんこそ、昨今のナチュラルワインの流れを生み出された、まさに先駆者のようなお店。そこは紺野真さんというオーナーシェフの店で、ナチュラルワインを出している店です。それで、自分の素性を明かして、ナチュラルワインのことを知りたいことを紺野さんに伝え、すべてお任せで食事と料理をお願いしました。
その時に、紺野さんのワインへのアプローチに驚きました。ワインの外観とか色とかで伝えていくだけではなく、「この人はこういう人でね、こういうふうにワインをつくっているだよ」と、先に「人」を伝えてくれたんです。その時、一気にナチュラルワインとの距離が近まったような、理解が深まったような、そんな気がしたんですよ。ナチュラルワインとちゃんと出会った気がした。それが大きいですね。単に料理とワインのセットではなく、それぞれバッググラウンドにストーリーがあるということを知ることで、思い入れを持って食すことができることを実感したんです。
Q7 実際、その「人」のストーリーとワインの味わいは重なるのですか?
A7 ちゃんと重なるんですよ。それが本当に楽しいんです。だから僕もなるべく生産者の方ともお会いするようにしています。会って、話をして、可能ならば一緒にワインを飲む。そうやって直にコミュニケーションをとることで、媒体とか誌面を通したものでは伝わらなかった「その人のこと」がわかるんです。
それを知りたいがゆえに生産者にはなるべく会いにいきます。それを感じた上で、毎回自分なりの解釈で、この人はこういう人と伝えさせていただいています。
Q8 ナチュラルワインはなぜ満月に美味しいのですか
A8 A3でお話した葡萄のつくり方に関係しています。ナチュラルワインの原料となる葡萄は、オーガニック農法であることは前提の上で、ビオディナミ農法というつくり方で、月の満ち欠け、潮の満ち引きが描かれている満月カレンダーをもとにつくられているんです。満月の時にはエネルギーが満ちると言われていますが、葡萄の収穫もそれに合わせています。そういうふうに自然の流れとともにつくられているため、味わいも月の満ち欠けと共鳴し、不思議なことに味わいが毎日違うし、力が満ちる満月の時にいちばん美味しいと言われていて、自分も確かにそう思うんです。
そういうふうにつくられているワインだからこそ、飲み頃は一番いい時に飲んであげたい。それで満月の日にナチュラルワインを飲みましょうという流れが世界的に生まれたんです。
Q9 「満月コント」をはじめた理由を教えてください。
A9 やっぱり何事も体験が大切だと思っていて、「満月にワイン飲むと美味しいらしいよ」と言葉は先走りますが、実際に体験してみないとわからないですよね。だからまずは「一回飲んでごらんよ」という機会をつくりたいと思っていました。
だけど、僕はワインが主役である必要はないと思っているんですね。ワインは、料理人が丹誠込めてつくった料理を引き立てるソースのような役目。いわば引き立て役。食事と一緒に飲んでもらって美味しいのがワインだから、ワインショップで「飲んでみてください」と言っても、本当はその場でのリアクションが見たい。やはり食事と一緒にあってこそ、本当の美味しさがわかるので。
他の県では満月の日にナチュラルワインを飲む「満月ワインバー」というイベントがここ数年いろいろな場所で開催されているのですが、それを沖縄でもやってみたいというのがありました。それで、CONTEの亮さんと出会い、料理を食べて、彼の丹精込めた、自然を活かした美味しい料理に感激し、ここでそれをやってみたいと思ったのが、この「満月コント」開催に繋がりました。
Q10 「満月コント」をこれまで開催してみて、どうでしたか?
A10 そもそも、CONTEさんのご飯がなければ、こういうことをやろうと思わなかったです。なぜならCONTEさんは沖縄の季節の食材を意識して、そこをフォーカスした料理を提供しています。ナチュラルワインもそうなんです。だから感性が合う。それはすごく重要なことでした。
「満月コント」のお客様にもワインの説明をする時には生産者のことを伝えます。そうすると、お客様もナチュラルワインへの理解を深めてくれる。それは手応えとして感じています。僕は最終的にその人のファンになってほしいんですよ。たとえば、いま最注目の白ワインの生産者、アレクサンドル・バンがつくるワインを飲んでみると、「このスルスル飲める、優しい感じは何? 色もこれまで見たことない、オレンジ色?」と感じると思います。それはアレクサンドルが本当に温和で優しい、でも内面には並々ならぬ情熱を持った人だから。それでアレクサンドル・バンのファンになる。「満月コント」に2度参加していただいたお客様は、いろいろ飲んでみて、オレリアン・ヴェルデが好きだと言っていましたね。「ワインが美味しいし、そしてイケメン!」、と。うんうん、きっかけは何でもいいんです。そういうふうに「誰々さんのワインが好き」となっていくんですよね。
前にも言いましたが、ナチュラルワインをつくるのって非常に大変なことなんです。一人で、いろいろこだわったつくりしているので、量産できなくて、天候の影響をすごく受けるから、よくできた年もあれば、全然できなかった年もあったりする。でもその人のファンになってくれたら、今年の出来は悪かったんだとわかった時にも、その人のワインを応援して買うという流れがでてきます。そうするとうまく循環していくんです。良い時もそうじゃない時も、その人が好きだからずっと応援していく。
ワインも飲食店もそうですが、美味しいものをつくってくれるところはたくさんあります。だけど、結局、何がお客様を惹きつけるかといえば、その人自身だと思うんです。ファンは、モノじゃなくて、人につくんですよ。だからその人のことを深く理解できるように僕は伝えたいし、それでその人のファンになってくれたら幸せです。
Q11 最後に、加藤さんが考えるナチュラルワインの魅力を教えてください。
A11 organさんに初めて行った時、ナチュラルワインを勉強したいからということを伝え、すべて紺野さんのオススメでお任せした、と言いましたが、その時、最初に出たワインが「ラファエル・バルトゥッチ ビュジェ・セルドン」という甘いロゼのスパークリングワインだったんです。びっくりしました。最初に甘口のワインが出るとは思わなかったから。クラシックなスタイルのレストランだと、最初は辛口のピリッとしたスパークリングからはじまるのがオーソドックスなんですね。だから、なぜ最初から甘いのかなと考えていました。でもおそらく、緊張して店に入ってきた僕のことを、彼は見透かしたんだと思います。「この人緊張してるからリラックスさせよう」って。実際、最初に甘いスパークリングを飲んだおかげで、思わず、ふっと力を抜くことができた。その時のことが衝撃として残っています。ああ、ワインって、最初に甘いのを飲んでもいいんだ、自由なんだって思いましたね。
本来、ワインは、自由に飲んでいいものなんですよね。必ずしも難しい説明はいらないし、こういうふうに飲まなくてはいけないという決まりごとは、その後でいい。料理人が美味しいものを振る舞いたいという想いと一緒です。「とりあえず、飲んでみなよ。美味しく楽しく飲んでおくれ」ということなんだと思います。「そのために俺たちは丁寧なつくり方をするよ」というつくり手の声が聴こえてくるようです。
だから、遠い国でつくられた一本のナチュラルワインを日本で飲みながら、この人はどんな人だろう、きっとこんな人かなって想いを馳せて飲むことができる。まるで会ったことがある人かのようにナチュラルワインは「人」と「人」とを繋げてくれます。そういう魅力をナチュラルワインは秘めているんです。
ナチュラルワイン専門店 un deux trois
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