先日、沖縄県立芸術大学が主催する『地域芸能と歩む』のキックオフ・フォーラムのプログラムのひとつに、シンガーの松田美緒さんと映像人類学者・川瀬慈さんのトークショーがありました。
そのトークショーは、松田さんが徳島の祖谷に残る民謡と出会い、地元の方々に口承で歌を習い、民謡をいまの響きとして命を吹き込んでいく様子を、川瀬さんが民謡の伝承に携わる地域の人々との深い交流とともにドキュメントしていった映像作品『めばえる歌―民謡の伝承と創造―』の抜粋動画を見ながら進んでいきました。土地の記憶と歴史、その土地に歌い継がれた歌には、その土地でしか生まれ得なかった理由があり、それを、歌、そして、映像や言葉を通して「いま」に解き放つ2人の対話は、人が生きる上でなぜ歌は必要なのか、どのように人は歌を生んできたのか、その根本を問い直すような力がありました。
松田美緒さんはこれまでポルトガル語圏、スペイン語圏の国々を訪れ、また、徳島だけでなく、日本各地ですでに忘れられてきた歌を発掘し、それぞれの地域に根づく、人の暮らしの中で必然として出てきた様々な歌と出会ってきた人。
彼女は言います。歌とは、人の心の奥にある想いの吐露であり、また内側から込み上げる哀しみの慟哭でもあり、そして魂揺さぶられながら歓喜の声を上げる、人間のもっとも根源的な表現だ、と。
そのトークショー後、川瀬さんが、アフリカのエチオピア北部の都市ゴンダールのストリートに生きる吟遊詩人たちとの魂の交流を描いた『ストリートの精霊たち』が、第6回鉄犬ヘテロトピア文学賞を受賞したというニュースが飛び込みました。すぐにこの本を取り寄せ、読みましたが、なぜ川瀬さんの語りに、聴く人を魅了する力があるのか、その理由がわかった気がしました。彼もまた、その土地に入り込み、そこに宿る魂を全身全霊で受け止め、その上で言葉を紡ぎ、そこに情景を立ち上がらせる、彼自身が吟遊詩人だったからです。
松田さんは、この8月から『地域芸能と歩む』のプログラムの一環として、沖縄の地域にかろうじて残る「うた」の記憶を探すプロジェクトを開始します。その最初が読谷村でのフィールドワークとなり、川瀬さんもそこに同行していきます。読谷でのフィールドワークの成果も含め、この夜は、2人の素晴らしき表現者の言葉と、そして、土地土地に深く入り込んでこそ生まれる詩と歌を、じっくり、そして心ゆくまま、聴き取りたいと思います。
きっと、世界を旅するような貴重な時間になると思います。そしてそれは、そのまま、ここ沖縄の地域に息づく詩とは何かを知ることにもつながっていくと思います。
この機会をどうぞ、お見逃しなく。
写真/八木ジン(松田)、片桐功敦(川瀬)
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松田美緒×川瀬慈「吟遊詩人の夜」
8月3日(土)首里・CONTE(コント)
18:30開場 19:00開演
入場料1500円(ドリンク別)
ご予約はCONTE(コント)まで。
098-943-6239/conteokinawa@gmail.com
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<川瀬慈プロフィール>1977年生まれ。国立民族学博物館/総合研究大学院大学准教授。専門は映像人類学、民族誌映画制作。2001年よりエチオピア北部の地域社会で活動を行う吟遊詩人、楽師たちの人類学研究を行っている。同時に人類学、シネマ、現代アートの実践の交差点から、イメージや音を用いた話法を探究する。近年はアフリカのストリートで採集した音を流しながら自作の詩を朗読するというパフォーマンスを各地で行っている。近著に『ストリートの精霊たち』(2018年、世界思想社)。www.itsushikawase.com/japanese
< 松田美緒プロフィール >ポルトガル語やスペイン語圏など世界中で音楽活動を重ねる、歌う旅人。2005年ブラジル録音の『アトランティカ』でデビュー。近年、日本内外の忘れられた歌の発掘を始め、14年にCDブック『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』を発表。16、17年読売テレビ『NNNドキュメント』でその活動を追った番組二作が放映。また、大分の歌の発掘プロジェクトによるアルバム『おおいたのうた』と、かつてのブラジル移民の人たちの想いがつまった歌集として松田美緒+土取利行『月の夜のコロニア〜ブラジル移民のうた』が発売さればかり。時空を超えるその歌声には、彼女が旅した様々な土地の記憶が宿っている。http://miomatsuda.com